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東京高等裁判所 昭和34年(く)87号 決定

請求人 松村定男

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定は、抗告人の請求にかかる北豊、中野繁および小川征一に対する刑事訴訟法第二六二条所定の付審判請求を所定の期間を経過してなされた不適式なものとして棄却したのであるが、抗告人は昭和三四年六月二七日朝不起訴通知書を受け同日午後前記付審判請求書を在監中の千葉刑務所職員に提出したもので、なぜ刑務所側が右書面を翌七月一五日まで保留して検察庁に提出しなかつたか判らないけれども、抗告人としては右のとおり所定期間内に刑務所に差し出しているのであるから、原決定の更正を求めるというのである。

よつて調査するに、本件抗告に対する原裁判所の意見書にも記載されているように、もともと原決定は、前記付審判請求書の差出日についての原裁判所の照会に対する千葉刑務所の回答等に基いたものであるが、本件抗告後同刑務所から原裁判所に提出された「抗告申立書の送付について」と題する同刑務所長作成名義の書面、当裁判所の照会に対し同所長から提出された昭和三四年一〇月一日付回答書ならびに前記付審判請求書の作成日付および東京地方検察庁受付印の各記載によれば、本件付審判請求書の差出日についての千葉刑務所の当初の回答は全く誤りであつて、実は右付審判請求の原因となつた不起訴処分は、昭和三四年六月二七日千葉刑務所在監中の抗告人に通知され、即日同人から前記付審判請求書が同刑務所係員に提出されたが、同係員の事務処理上の不手際により右書面の発送が遅れ、同年七月一六日にいたりはじめてこれが東京地方検察庁に受理された事実を認めることができる。しかし、刑事訴訟法第二六二条二項によれば、いわゆる付審判の請求は不起訴処分の通知を受けた日から七日以内に書面を不起訴処分をした検察官に差し出してこれをしなければならない旨規定されており、しかもこの請求に関しては、上訴の提起に関する同法第三六六条一項のような明文がないので、抗告人が本件付審判請求書を所定期間内に刑務所係員に差し出すことによつて当然所定期間内に右請求をしたものとみなすわけにはゆかず、たとえ本件における法定期間の不遵守が、前述のとおり、抗告人の責に帰することができない事由によつて生じ、しかもそれが国家機関の手落ちによるとしても、期間の点に関し、本件付審判の請求が適法になされたと解し得べき余地があるかどうかは疑問の存するところであるが、仮にこの点について右請求が適法になされたものとしても、次に述べるとおり、その請求の一部について、本来かような請求の対象となし得ない事案についてなされた違法があるとともに、他の点においてその請求は理由のないものである。

すなわち、本件付審判請求書の記載および東京地方検察庁から取り寄せた当該不起訴記録によれば、抗告人は、北豊に対しては器物損壊、証憑湮滅、公務員職権濫用の各罪につき、中野繁に対しては器物損壊、証憑湮滅、虚偽鑑定の各罪につき、また小川征一に対しては偽証の罪につき各告訴をなし、その全部につき不起訴処分を受けたことを理由として右付審判の請求におよんだことが認められるのであるが、以上のうち北豊に対する公務員職権濫用の罪についての案件以外は、本来法律上かような付審判請求の対象となし得ないことが刑事訴訟法第二六二条一項の規定上明白であるから、その部分の請求は不適法であるといわなければならない。また北豊に対する公務員職権濫用罪に関する請求部分については、犯行が終つたときから三年を経過することによつて当時すでに公訴時効が完成していたことがうかがわれ(刑法第一九三条、刑事訴訟法第二五〇条五号参照)、これに対する告訴について検察官が不起訴処分をしたことは相当であるから、その請求は理由がないものである。

以上の次第により、抗告人の付審判請求を棄却した原決定は、少くともその結果において全く正当であるから、本件抗告はその理由がないことに帰する。

よつて刑事訴訟法第四二六条一項により本件抗告を棄却する。

(裁判官 兼平慶之助 足立進 関谷六郎)

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